「概念工学入門ツアー」レポート&インタビュー

2019年8月10,11日、人社ユニット in GACCOH が後援する「概念工学入門ツアー」が開催されました。灼熱の暑さのなか、1日目は出町柳GACCOH、2日目は大阪桃谷オンガージュ・サロンにおいて、のべ40名以上の参加をいただきました。8月24日に開催された「東京編」も30人以上を集めて大盛況のうちに終わったそうです。

京都・大阪編の2日間の様子と、ナビゲーターの松井さん、GACCOHの太田さん、オンガージュ・サロンの朱さんによるふりかえりを収めた動画を作成しました。

ナビゲーターの松井隆明さんは、今年2月にクラウドファンディングに挑戦したり、日本から海外のポストを獲得したり、といった活動で注目されました。大学院生・若手研究者として、どのようなお考えで活動を展開されているのか、伺いました。

ー「概念工学入門ツアー」の2日間の講義、どうもおつかれさまでした!今回のイベントをやるようになった経緯はどんなものだったのでしょうか。

松井:[今回の主催の1人オンガージュ・サロンの] 朱さんとは以前から交流があり、概念工学と推論主義に関する私の論文の草稿にコメントをいただいたりもしていました。その際、概念工学や推論主義で何か企画ができればという話も朱さんから伺っていました。私自身、「概念工学」という言葉がひとり歩きしつつあることに危機感を感じるところがあったので、研究の現状を整理して報告する良い機会だと思い、3月にアメリカから帰国したタイミングで改めて私の方から朱さんに相談し、最終的に今回のような形になりました。

GACCOHでの講義の様子

ーこのイベントや後でお話しするクラウドファンディングなど、この1年ほどで大学の外でのご活躍が目覚ましいですね。このような活動を始めるきっかけのようなものはあったんでしょうか。

松井:ちょっと前までは、典型的な「文系大学院生」という感じで、閉じこもって研究ばっかりやっていたんですが、博士課程も終わりが近づいてきて、ひとつには、自分でもある程度自信をもって外に発信できるものができてきたかなという感触がありました。もうひとつには、自分の先輩や同年代を見てみても、非常勤講師などの仕事もなかなか回ってこないような厳しい状況なんですよね。これは待っていてはダメで、自分から仕事を見つけに出ていかなければどうしようもないぞ、という危機感がありました。

ーなるほど、そうでしたか。でも思い切って外に出てみると、どんどんものごとがいい方向に回り始めているみたいですね。それでは、そのクラウドファンディング(以下CF)についてお伺いします。松井さんは、academistという学術系CFサイトで、2019年2月から4月にかけて「現代において哲学に何ができるのか?」というタイトルでCFに挑戦され、みごと目標金額を達成されました。この挑戦はどのように思いついたんでしょうか。

松井:ウィーン大学で2019年4月に開催されるワークショップで発表するために応募はしたものの、渡航費用の目処が立っておらず、国内外の研究助成を片っ端から調べているうちに、CFという手段もあるということがわかり、挑戦しました。渡航に十分な金額を支援していただいて、とてもありがたかったです。

ー学振の奨励費や科研費などの資金獲得と比べて大変だったことはありますか?

松井:CFを募るための研究計画の立て方や宣伝の仕方は、ふだんの申請書の書き方よりも少しだけ一般向けにしたくらいで、特別に大変ということはありませんでした。動画を撮ったり自分の顔を出したりするのは、独特のプレッシャーがありましたが。あと、学振などの応募は応募書類を出せば結果発表のときまで忘れていられるんですが、CFの場合は、どうしても金額の増え方に一喜一憂してしまうので、そのあたりが精神的には少し大変でしたね。また、CFでは支援者に対するリターンが設定されますが、私の場合は、発表要旨の日本語訳や哲学カフェでの活動報告などで、経済的・時間的な負担も少なく、研究の一環として無理なく行うことができました。

ーたしかに、プロジェクトの説明文は、科研費の申請書でも使えそうなとても堅実な文章でしたね。論理的には明晰でわかりやすいのですが、言ってみれば「媚びる」ところのない、実直で、読者を信頼した書き方だと思いました。

松井:Academistでの哲学CFは私が初めてだったので、自分が成功して終わりではなく、他の人たちが後に続きやすいようにとは考えていました。CFだからといって変に情に訴えたりしなくても、研究の内容とその重要性をしっかりと明確に説明すれば十分伝わる、ということを示したいと思っていました。

クラウドファンディングのウェブページ

ーさて、松井さんは昨年度まで学振の若手研究者海外挑戦プログラムでアメリカに滞在して、その後も、セントアンドリュース大学から招待講演のオファーを受け取ったり、今年9月からのオランダでの客員研究員ポストを獲得したりと、国際的にも活躍されています。ちょうどCFに挑戦した頃でもあり、こうしたニュースがツイッターでも話題になって、「おめでとう」ムード一色でしたね。どのようなスタンスでこうした海外での活動をなさっていますか?

松井:以前に留学を考えたときは語学に自信がなくて、いったんはあきらめたんです。でも、研究を続けているうちに、話す聞くはともかく、読み書きについてはある程度自信が持てるようになったので、思い切って海外にも出るようにしています。海外挑戦プログラムのあいだは、なるべく多く発表をして、なるべく多くの研究者と会うようにしていました。だんだんと自分の研究に目を留めてくれる人も出てきて、それが招待講演や客員ポストにつながったのではないかと思います。

ーCFや今回のイベントのような社会的な活動にしても、海外での活動の仕方にしても、従来とはちがう新しい研究者のあり方を松井さんは示されているように思います。SNSなどで情報がリアルタイムで共有されているのも大きいですね。この1年間ほどの活動をご自身ではどのように捉えていますか?

松井:想像もしなかったようなことが次々に実現した1年でした。人文系院生のイメージを少しでも変えられたのであれば嬉しいですし、これからも国際的な研究業績もきちんと出しつつ、社会の中にもどんどん出ていこうと思っています。人文学をめぐる環境はたしかにとても厳しいのですが、だからこそ、新しいことにチャレンジするチャンスでもあると思っています。それに、新しいことにチャレンジする人をみんなで応援する雰囲気を強く感じています。今回のCFでも、研究業界の内からも外からも、ほんとに多くの支援をいただいて感謝しています。

ー今後はどのような活動を考えていますか?

松井:こんど応募するグラントが採択されれば、しばらくは研究に専念したいなと思っています。CFはまた研究費が無くなったら挑戦します(笑)。

ーはい(笑)。どうもありがとうございました!

CAVA BOOKSさんで展開していただいた関連書籍。奥には「リスク社会学」コーナーも。