2019年4月27日に開催した第1回全学シンポジウム「アジア人文学の未来」に関連し、本ユニット所属の先生方に「これぞアジア人文学」という書籍を推薦いただき、シンポジウムの前後期間に附属図書館、西部構内ルネ、ジュンク堂書店京都店でブックフェアを展開いたしました。

以下に、選書リストを先生方の推薦コメントとともに公開いたします(順不同)。会場で配布したパンフレット(PDF)はこちらからダウンロードできます。また、KULINEでは以下の選書に「全学シンポジウム・アジア人文学の未来(教員推薦図書)」というタグが付けられていますので、例えば「アジア人文学の未来」などで検索すると蔵書が一覧できます。
小泉順子先生 (東南アジア地域研究研究所 教授) 推薦

『地図がつくったタイ ―国民国家誕生の歴史』
著:トンチャイ・ウィニッチャクン、訳:石井米雄、明石書店、2003年
19世紀末から20世紀初頭のシャム(タイ)において、唯一絶対の国家主権と国境を前提とする近代地理学と地図に関わる言説がヘゲモニーを獲得し、それにあわせて過去がつくられていく過程を明らかにする。国境制定過程で周縁の小王国の自律性が奪われ、その歴史は国民国家史の中で主体を喪失する。英仏植民地勢力による領土の略奪とそれに対抗した賢明なる国王による 統治制度の改革という一般的な理解がはらむバンコク中心の視点とその政治性を鮮やかにあぶりだす。史料を丁寧に読み解き既存の理解を覆す歴史研究の醍醐味と大切さを教えてくれる。
風間計博先生 (人間・環境学研究科 教授) 推薦

『消されたマッコリ。 ―朝鮮・家醸酒(カヤンジュ)文化を今に受け継ぐ』
著:伊地知紀子、社会評論社、2015年
私たちが未来を語るには、過去を考えなければならない。過去に起こった事実とは、記憶とは、歴史とは何か、大阪の多奈川事件(1952年)を題材に、「未来を語る前に考えるべきこと」を教えてくれる好著。
髙嶋航先生 (文学研究科 教授) 推薦

『思想課題としてのアジア:基軸・連鎖・投企』
著:山室信一、岩波書店、2001年
本書は、一見たんなる地理的概念である「アジア」が、日本人を含む「アジア」人の世界観、世界認識の根底となっていることを、古今東西の文献をまさしく縦横無尽に引用して実証した画期的研究である。本書を読まずして、「アジア」を語るなかれ。
(髙嶋航先生の「ほとんど0円大学」コラボ企画でのインタビューもぜひお読みください。)
出口康夫先生 (文学研究科 教授) 推薦
日本はアジアの国だ。僕らはアジア人だ。でも、本当に胸を張ってそう言えるだろうか? そう言えるためには、まずアジアを知らなければならない。でも僕らはビックリするほどアジアのことを知らない―特に現代アジアで何が起こったのかを。例えば1947年2月28日の台湾で、1948年4月3日の済州島で、1987年6月10日のソウルで起こった出来事。それらを知るための二冊と一本。これらをひもとくことがアジアの真の一員になるための第一歩、「アジア人文学」を語るための第一歩になるはずだ。

『台湾現代史:二・二八事件をめぐる歴史の再記憶』
著:何義麟、平凡社、2014年

『朝鮮と日本に生きる:済州島から猪飼野へ』
著:金時鐘、岩波新書、2015年

『(映画) 1987 ある闘いの真実』
チャン・ジュナン監督、2017年
(出口康夫先生の「ほとんど0円大学」コラボ企画でのインタビューもぜひお読みください。)
上島亨先生 (文学研究科 教授) 推薦

『近世の日本 日本近世史』
著:内田銀蔵、平凡社東洋文庫、1975年
世界史的な視野で日本史全体を捉えたうえで、日本近世の特質を論じる。『日本近世史』の「緒論」の部分(p151~p178)は特におすすめ。
竹澤祐丈先生 (経済学研究科 教授) 推薦

『帝国主義下の台湾』
著:矢内原忠雄、岩波書店、1929年 (1988年復刊)
戦前の植民学は、(支配することを前提に)他国の歴史や文化などを理解する要素を持っていま す。そこではどのような議論や評価がなされてきたのかを知ることは、私たちがアジアに向き合うときに重要と思います。

『単一民族神話の起源』
著:小熊英二、新曜社、1995年
私たちがアジアに向き合うとき、そして、私たちがアジアの一員と考えるときに、「私たち」とは誰なのかという問いが関係します。その問題を考える際に、過去から言われてきた言説を見ることで、よりよく考えることができる気がします。どう思うかよりも、まずは知ることが必要に思います。


『謎のアジア納豆―そして帰ってきた〈日本納豆〉』
著:高野秀行、新潮社、2016年
自文化の独自性という主張ほど甘美なものはありませんが、実態はいかに。かたい本だけでなく読んでみることを勧めます。納豆好きの人にもぜひ。
ミツヨ・ワダ・マルシアーノ先生 (文学研究科 教授) 推薦

『<ポスト3.11>メディア言説再考』
編:ミツヨ・ワダ・マルシアーノ、法政大学出版局、2019年
東日本大震災後について「公の声」をマスメディアは伝えてきましたが、その一方で見えない恐怖や言葉にできない感情は、写真や映画、論説、絵画、小説、ツイッターなどさまざまな形で表現されてきました。あの日、むき出しになった不条理や矛盾は、日本の文化にどのような変化を与えたのでしょうか。本書では、哲学、文学、社会学、映画・映像学、メディア研究、クイアー理論研究といった多彩な分野の執筆者が、東日本大震災後の日本文化の変遷について分析しています。
熊谷誠慈先生 (こころの未来研究センター 特定准教授) 推薦

『ブータン:国民の幸せをめざす王国』
編:熊谷誠慈、創元社、2017年
ブータン王国は「幸せの国」とも呼ばれ、国民総幸福(GNH)政策により世界の幸福政策を牽引してきた。しかし、ブータンの国民は本当に幸福度が高いのか。また、近代化や国際化との兼ね合いはどうなっているのか。本書は、歴史、文化、社会、自然・環境をテーマに、ブータンの実像を様々なエピソードを交えながら紹介しています。
河野泰之先生 (東南アジア地域研究研究所 教授) 推薦

『歴史のなかの熱帯生存圏 ―温帯パラダイムを超えて―』(『講座 生存基盤論』第1巻)
編:杉原薫・脇村孝平・藤田幸一・田辺明生、京都大学学術出版会、2012年
アジア・アフリカの熱帯地域には、現在世界人口の約半分が住んでおり、その比率は今後さらに上昇するものと考えられます。資源・エネルギー価格の激変や地球温暖化によってもっとも深刻な影響を受けるのも発展途上国の多いこの地域です。本講座は、熱帯社会にとってどうしても欠かせない「生存基盤」とは何か、地球環境の持続性を維持するために人類は生存基盤をどのように作っていけばよいのかを学際的な視点から考察しました。
(河野泰之先生の「ほとんど0円大学」コラボ企画でのインタビューもぜひお読みください。)
三重野文晴先生 (東南アジア地域研究研究所 教授) 推薦

『現代東アジア経済論』
編著:三重野文晴・深川由起子、ミネルヴァ書房、2017年
アジア経済を専門とする13人の経済学者が、中国を除く東アジアの経済成長の過程を読み解き解説するテキストです。「東アジアの奇跡」と呼ばれた工業化の成功と、日本を先頭にした雁行型の発展のメカニズムを分析し、成長から成熟へと向かう地域の課題にも言及しています。従来の各国別の解説ではなく、域内に通底する要素に着目してまとめたものです。アジア経済を学ぼうと思われる大学生、院生、社会人にお奨めです。
太田出先生 (人間・環境学研究科 教授) 推薦

『中国のフロンティア ―揺れ動く境界から考える』
著:川島真、岩波新書、2017年
現在、世界各地を飛び回りながら精力的な取材・研究活動を続ける著者が、フロンティアから見る中国を描き出した第一弾。アフリカ、ASEAN、東チモール、金門島という、いまや中国との関係から「熱い」視線が投げられかけつつある国家や地域から、運動体としての中国を明らかにしようと試みている。全世界に影響力を及ぼしている現代中国に関心のある方ならば必見の書。

『21世紀の「中華」―習近平中国と東アジア』
著:川島真、中央公論新社、2016年
中国外交史の第一人者である著者が2012~2016年に書き留めた短文をまとめたもので、尖閣国有化、日台漁業協定、南シナ海、AIIB、慰安婦問題など、さまざまな時事問題を取り上げ、著者ならではの鋭い視角から切り込んでいる。隣国日本が意識しなければならないトピックを網羅的に拾っており、今後の習近平中国の行く末を考えるうえで不可欠の一冊となるであろう。

『赤い星は如何にして昇ったか ―知られざる毛沢東の初期イメージ』
著:石川禎浩、臨川書店(京大人文研東方学叢書)、2017年
一枚の肖像画から解き明かす若き日の毛沢東。日本の中国共産党史研究を代表する著者がまるで一つの謎解きを見ているかのような筆致で読者をぐいぐいと引き込んでいく。初期の毛沢東はどのようにイメージされていたか。今もなお中国に大きな影響を及ぼし続ける毛沢東の実像に迫る。
落合恵美子先生 (文学研究科 教授) 推薦

『親密圏と公共圏の再編成ーアジア近代からの問い』
編:落合恵美子、京都大学学術出版会、2013年
アジアからはソウル大学、台湾大学、復旦大学、シンガポール大学、チュラロンコーン大学、フィリピン大学、ベトナム社会科学院、デリー大学、ヨーロッパからはフランス社会科学高等研究院、オクスフォード大学、ストックホルム大学、北米からはハーバード大学等々、世界の研究者と協力して出版しているアジア社会研究についてのシリーズ第1巻です。ジェンダー、絵画、労働、人の移動などについての巻も既刊であり、英語版もブリル社から刊行されています。
松井啓之先生 (経営管理大学院 教授) 推薦

『知的生産の技術』
著:梅棹忠夫、岩波新書、1969年
梅棹忠夫氏は、京都大学のフィールドワーク研究の第一人者としてだけではなく、日本における民俗学・文化人類学のパイオニアとして有名です。梅棹氏の業績を挙げればキリがありませんが、例えば、工業化の次の段階として、情報化社会/情報社会論を提唱したことが挙げられます。現在のSociety4.0や5.0といった考えの先駆者であったのです。また、国立民族学博物館の設立に尽力するなど、京都大学の人文社会科学を考える際に忘れることのできない人物です。数々の著作の中でも「知的生産の技術」は、梅棹氏のフィールドワークの経験から、創造的な知的生産を行うための実践的技術をまとめたものです。専門書ではなく誰もが読むことができます。1969年出版ですので古典と言えるでしょう。実際、使われている技術や手法は古臭いかも知れません。しかしながら、学生だからこそ、そしてインターネットやスマートフォンが当たり前で、簡単に情報が入手できるように思う現代だからこそ、ぜひ手にとって、じっくり読んで、その意味を考えてもらいたい書籍として推薦します。
関口格先生 (経済研究所 教授) 推薦

『昔話の戦略思考』
著:梶井厚志、日本経済新聞出版社、2017年
私の専門は経済理論で、数理的な経済分析やゲーム理論の論文を書くのが本業である。そん な私が本を薦めるとなると、やはり経済理論を専門とし、数理的な経済分析やゲーム理論の論 文を書く人の本になる。しかしこの本は、われわれがよく知る昔話や、昔の日本人の暮らしを生き生きと描いた落語を題材に、物語に潜む経済学的思考を解読する。これってまさに、アジア人文学×経済理論なのでは?
貴重な1冊です。
河合俊雄先生 (こころの未来研究センター 教授) 推薦

『ユング心理学と仏教』
著:河合隼雄、岩波現代文庫、2010年
西洋のユング心理学を日本で実践し理解していく上で、仏教を拠り所として論じられている。たとえば西洋の自我が固定し、他者から区別されたものであるのに対して、日本の私は、自他が浸透し合った流動的なもので、それを著者は「華厳」の考え方で説明している。さらには西洋の自己実現が、自分の力で自分を作り上げていくものであるのに対して、日本では自分の独自性を驚きながら発見していくことになる。
廣井良典先生 (こころの未来研究センター 教授) 推薦

『古事記の起源ー新しい古代像をもとめて』
著:工藤隆、中公新書、2006年
日本とアジアの関係は、「日本“と”アジア」という具合に日本とアジアを区分して認識されることが多いが、しばしば日本の“ルーツ”の一つのように語られる『古事記』など日本神話の中に、実は中国南部や東南アジアなどアジアの要素が大量に含まれている。このことを、既存の学問領域を横断しつつ、壮大なスケールの視座と丹念なフィールド調査に基づいて論じた本、私たちの日本観・アジア観を刷新するような知的刺激に富んでいる。
宮宅潔先生 (人文科学研究所 教授) 推薦

『科挙ー中国の試験地獄』
著:宮崎市定、中公新書、1963年
京都大学の東洋史研究に一時代を築いた泰斗の、一般向け著作の一つ。ややこしい中国前近代の試験制度を、時に挿話を交えつつ分かりやすく紹介する。初版からすでに50年以上を経て いるものの、その面白さは今も変わらない。
シンポジウムご登壇の先生方の著作

『日本哲学史』
著:藤田正勝、昭和堂、2018年

『インティマシーあるいはインテグリティー』
著:トマス・カスリス、訳:衣笠正晃、法政大学出版局、2016年

『京大東洋学の百年』
編:礪波護・藤井譲治、京都大学学術出版会、2002年

『軍隊とスポーツの近代』
著:髙嶋航、青弓社、2015年

『誘惑する文化人類学 ―コンタクト・ゾーンの世界へ』
著:田中雅一、世界思想社、2018年

『ゴリラからの警告「人間社会、ここがおかしい」』
著:山極寿一、毎日新聞出版、2018年

『環世界の人類学 ―南インドにおける野生・近代・神霊祭祀』
著:石井美保、京都大学学術出版会、2017年

『文化人類学の思考法』
編:松村圭一郎・中川理・石井美保、世界思想社、2019年
(石井美保先生の「ほとんど0円大学」コラボ企画でのインタビューもぜひお読みください。)
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